「表面利回り8%なら良い物件では?」——実際に全指標を計算してみると、収益の実態は全く異なります。この記事では一つの架空物件を使い、GPI から CCR まで順番に計算して「なぜ赤字になるのか」を完全に解説します。
対象物件の基本情報
物件種別: 区分マンション(1K)
所在地: 某地方都市
物件価格: 1,500万円
専有面積: 25㎡
現行賃料: 月10万円(年間120万円)
築年数: 築20年
表面利回り: 8%(= 120万円 ÷ 1,500万円)
融資条件:
借入額: 1,200万円(LTV 80%)
金利: 3.0%(変動)
融資期間: 30年
月返済額(目安): 約5.05万円
ADS(年間): 約60.6万円
ステップ1:GPI(年間満室想定収入)
GPI = 月賃料 × 12ヶ月
= 10万円 × 12
= 120万円
注意: この10万円は現行賃料です。周辺の類似物件(築20年・1K・同エリア)の市場相場は月8万円程度であることが調査でわかりました。現行賃料が市場相場より25%高い状態です。
⚠ GPI は市場相場賃料で再計算する
現行賃料10万円で計算すると表面利回り8%ですが、市場相場8万円で再計算すると表面利回りは6.4%に下がります。以降は「退去後のリスク」を含む相場賃料8万円でも計算します。
ステップ2:EGI(実効総収入)
空室損失を引いた実際の収入です。エリアの平均空室率5%を使います。
EGI = GPI × (1 − 空室率)
= 120万円 × (1 − 5%)
= 120万円 × 0.95
= 114万円
市場相場賃料(8万円)での EGI:
EGI(相場)= 96万円 × 0.95 = 91.2万円
ステップ3:OPEx(運営費)
管理費・修繕積立・固定資産税・火災保険などの運営費を合計します。
内訳(概算):
管理費(賃料の5%): 6万円/年
修繕積立(賃料の5%): 6万円/年
固定資産税: 8万円/年(概算)
火災保険: 2万円/年
合計 OPEx: 22万円/年(EGI の約19%)
OPEx は一般的に GPI の 20〜30% 程度を目安とします。今回は約19%となりましたが、修繕状態次第でさらに増える可能性があります。
ステップ4:NOI(純営業収益)
NOI = EGI − OPEx
= 114万円 − 22万円
= 92万円
市場相場賃料での NOI:
NOI(相場)= 91.2万円 − 22万円 = 69.2万円
ステップ5:FCR(総収益率)
FCR = NOI ÷ 物件購入価格
= 92万円 ÷ 1,500万円
= 約6.1%
市場相場賃料での FCR:
FCR(相場)= 69.2万円 ÷ 1,500万円 = 約4.6%
ローン金利3.0%との比較:
- 現行賃料FCR 6.1% → イールドギャップ +3.1%(良好)
- 相場賃料FCR 4.6% → イールドギャップ +1.6%(ギリギリ)
ステップ6:CF(キャッシュフロー)
CF = NOI − ADS
= 92万円 − 60.6万円
= +31.4万円/年(月+2.6万円)
市場相場賃料での CF:
CF(相場)= 69.2万円 − 60.6万円 = +8.6万円/年(月+7,200円)
現行賃料ベースでは月+2.6万円の黒字ですが、相場賃料ベースでは月+7,200円になります。
CF: +31.4万円/年(月+2.6万円)
→ 「黒字!問題なし」
→ 退去後リスクを考慮していない
CF: +8.6万円/年(月+7,200円)
→ 修繕費1回(20〜30万円)で年間赤字転落
→ 空室1ヶ月で約-8,500円の赤字になる
→ 余裕がほとんどない
ステップ7:DSCR(返済余力)
DSCR = NOI ÷ ADS
= 92万円 ÷ 60.6万円
= 約1.52
市場相場賃料での DSCR:
DSCR(相場)= 69.2万円 ÷ 60.6万円 = 約1.14
現行賃料では1.52(良好)ですが、相場賃料では1.14(最低ラインに近い)まで低下します。
ステップ8:BER(損益分岐入居率)
BER = ADS ÷ GPI
= 60.6万円 ÷ 120万円
= 約50.5%
市場相場賃料での BER:
BER(相場)= 60.6万円 ÷ 96万円 = 約63.1%
エリア平均入居率が90%なのでBERは余裕を持ってクリア。空室耐性は高い数値です。
ステップ9:CCR(自己資金収益率)
自己資金 = 頭金(300万円)+ 諸費用(60万円) = 360万円
CCR = CF ÷ 自己資金
= 31.4万円 ÷ 360万円
= 約8.7%
市場相場賃料での CCR:
CCR(相場)= 8.6万円 ÷ 360万円 = 約2.4%
CCRが現行8.7%から相場2.4%に急落します。
全指標の比較まとめ
| 指標 | 現行賃料(10万円) | 市場相場(8万円) | 判定 |
|---|---|---|---|
| 表面利回り | 8.0% | 6.4% | 要確認 |
| FCR | 6.1% | 4.6% | 相場では△ |
| CF(年) | +31.4万円 | +8.6万円 | 相場では余裕なし |
| DSCR | 1.52 | 1.14 | 相場では最低ライン付近 |
| BER | 50.5% | 63.1% | OK |
| CCR | 8.7% | 2.4% | 相場では低い |
結論:この物件は「買い」か
現行賃料ベースでは許容範囲内ですが、退去後のリスクが大きすぎます。
- 退去1件で月+2.6万円 → 月+7,200円に急落
- さらに修繕費・空室が重なると月数千円〜赤字転落
- 金利が1%上昇すると ADS が増加し、相場賃料DSCRは1.0付近に
ℹ 「買える物件」と「買うべき物件」は別
数字が成立するかどうかと、そのリスクが許容できるかは別の問題です。この物件は現行賃料では数字が成り立ちますが、退去後・金利上昇後のシナリオに余裕がありません。購入するなら価格交渉(1,200万円程度)または退去リスクの織り込みが必要です。
もし1,200万円で購入できた場合:
FCR(相場)= 69.2万円 ÷ 1,200万円 = 約5.8%(イールドギャップ +2.8%)
CF(相場、借入960万円・3%・30年・ADS約48万円)= 69.2 − 48 = +21.2万円/年
DSCR(相場)= 69.2 ÷ 48 = 約1.44(良好)
価格を下げることで、退去後でも余裕のある収益構造になります。
この手順を自分の物件候補で試してみる
物件価格・賃料・融資条件を入力するだけで、GPI・NOI・FCR・DSCR・BER・CF・CCRを自動計算。退去後シナリオの比較もできます。
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- GPI → 満室時収入(現行と相場の両方で確認)
- EGI → 空室損失を引いた実際の収入
- OPEx → 管理費・修繕費・固定資産税などの運営費
- NOI → EGI − OPEx(物件の純収益)
- FCR → NOI ÷ 物件価格(ローン金利と比較)
- CF → NOI − ADS(手元に残るお金)
- DSCR → NOI ÷ ADS(返済余力)
- BER → ADS ÷ GPI(空室耐性)
- CCR → CF ÷ 自己資金(資金効率)
表面利回り8%は「出発点の数字」に過ぎません。9つの指標を全て計算して、初めて実態が見えます。
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