不動産ポータルに掲載される「利回り○%」は、ほぼすべて表面利回りです。しかし、投資判断に使うべき数字は**実質利回り(FCR)**です。この2つは計算式がまったく異なり、同じ物件でも数字が大きく変わります。
表面利回りとは何か
表面利回りの計算式は次の通りです。
表面利回り = 年間賃料収入(満室) ÷ 物件価格 × 100
費用をいっさい考慮しない点が特徴です。管理費・修繕費・固定資産税・空室損失がすべてゼロという前提で計算されています。
物件価格2,000万円・月額賃料13万円の場合:
年間賃料 156万円 ÷ 2,000万円 × 100 = 7.8%
⚠ 表面利回りは「広告用の数字」
表面利回りは物件間の比較に使う検索フィルターです。実際の収益力を示す数字ではありません。投資判断に使うのは危険です。
NOI(純営業収益)とは
NOI(Net Operating Income) は、実際の運営収益から費用を差し引いた数字です。
NOI = 年間賃料収入(稼働分) − 運営費用
NOIに含まれるもの:
| 収入 | 費用 |
|---|---|
| 賃料(空室控除後) | 管理費(賃料の5〜8%) |
| 駐車場収入など | 修繕費・原状回復費 |
| 固定資産税・都市計画税 | |
| 火災保険料 | |
| 入居募集費用 |
NOIに含まれないもの: ローン返済(元本・利息)
ローン返済はNOIの後で計算します。NOIはあくまで「物件そのものの収益力」であり、返済条件に左右されない数字です。
先ほどの物件(2,000万円・月額賃料13万円)で計算すると:
年間賃料収入(空室率5%): 156万円 × 0.95 = 148.2万円
運営費用(賃料の20%): 148.2万円 × 0.20 = 29.6万円
NOI = 148.2万円 − 29.6万円 = 118.6万円(※概算)
ℹ 運営費用比率の目安
木造・築古は25〜30%、RC・新築は15〜20%が目安です。ただし物件ごとに異なるため、管理会社への確認や過去の修繕履歴の確認が重要です。本記事の数値はあくまで例示です。
実質利回り(FCR)とは
FCR(Free and Clear Return) は、NOIを物件取得総額で割った利回りです。
FCR(実質利回り) = NOI ÷ 物件取得総額 × 100
物件取得総額 には諸費用(仲介手数料・登記費用・不動産取得税など)も含めます。諸費用は一般的に物件価格の6〜8%程度かかります。
先ほどの例で計算すると:
物件取得総額: 2,000万円 + 140万円(諸費用7%)= 2,140万円
NOI: 約118.6万円
FCR = 118.6万円 ÷ 2,140万円 × 100 ≈ 5.5%
表面利回り7.8% → 実質利回り(FCR)5.5%。2.3ポイントの差があります。
表面利回り 7.8%
→ 「高い、買おう」
→ 実態が見えていない
NOI: 118.6万円
FCR: 5.5%
ローン金利との差(イールドギャップ)で判断できる
FCRとローン金利の関係(イールドギャップ)
FCRとローン金利の差をイールドギャップといいます。
イールドギャップ = FCR − ローン金利
| 状態 | 目安 |
|---|---|
| 安全 | イールドギャップ ≥ 2% |
| 要注意 | イールドギャップ 1〜2% |
| 危険 | イールドギャップ < 1% |
※この目安は物件種別(区分/一棟)・築年・エリア・金利環境で変動します。地方高利回り物件と都心低利回り物件を同一基準で比較しないよう注意してください。
FCR 5.5%・ローン金利 2.0% の場合、イールドギャップは3.5%でひとまず安全圏です。ただしFCRは空室率や修繕費の前提によって変動するため、楽観的な想定には注意が必要です。
⚠ FCR < ローン金利は原則避ける
FCRがローン金利を下回る物件は、借入れをすることで収益が悪化しやすい状態(逆レバレッジ)です。短期の例外はありえますが、初心者の長期保有前提では原則として避けるべきです。
表面利回りとFCRの差が大きい物件は要注意
一般的に表面利回りとFCRの差が大きい物件は:
- 空室率が高い(または楽観的な満室前提)
- 管理費・修繕費が高い(築古・木造など)
- 諸費用が高い(地方物件・競売物件など)
差が2%以上ある場合は、運営費用の内訳を必ず確認しましょう。
手計算では限界がある
FCRを正確に計算するには、空室率・運営費用・諸費用を個別に入力して試算する必要があります。さらに複数の物件を比較したり、条件を変えてシミュレーションしたりすると、手計算では追いつかなくなります。
まとめ
- 表面利回り:費用ゼロ前提の広告用指標。投資判断には使わない
- NOI:費用を差し引いた実際の収益力。ローン返済は含まない
- FCR(実質利回り):NOI ÷ 取得総額。ローン金利と比較してイールドギャップを確認する
次のステップは、NOIとローン返済を組み合わせたDSCR(返済安全性の指標)の理解です。FCRが高くても、DSCRが低ければ返済に詰まるリスクがあります。