不動産投資を検討するとき、最初に目に入るのが「利回り○%」という数字です。ポータルサイトに並ぶ物件の多くは、表面利回り7〜10%という数字を掲げています。
しかし、表面利回りが高い物件でも、実際には毎月赤字になるケースは珍しくありません。なぜそうなるのか、「NOI → DSCR → キャッシュフロー」の流れで理解しましょう。
表面利回り 8%
→ 「良さそう」→ 購入
実質利回り 4%
DSCR 1.11(危険水域)
月次CF +6,700円(税引前)
→ 修繕1回で数年分が消える
表面利回りとは何か
表面利回りは次の式で計算されます。
表面利回り = 年間賃料収入 ÷ 物件価格 × 100
たとえば、物件価格2,000万円・月額賃料13万円(年156万円)の場合:
156万円 ÷ 2,000万円 × 100 = 7.8%
⚠ 表面利回りの落とし穴
この計算には費用がいっさい含まれていません。管理費・修繕費・税金・空室損がゼロという非現実的な前提の数字です。
ステップ1:NOIを計算する
まず表面利回りから「実際の収益力」を示す NOI(Net Operating Income:純営業収益) を計算します。
NOI = 年間賃料収入(稼働分) − 運営費用
NOIにはローン返済(元本・利息)は含まれません。 NOIはあくまで「物件そのものの収益力」を示す数字であり、返済能力の判断はこの後のDSCRで行います。
先ほどの物件で計算してみます。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 年間賃料収入(満室) | 156万円 |
| 空室損(稼働率90%想定) | ▲15.6万円 |
| 管理委託費(5%) | ▲7.8万円 |
| 管理費・修繕積立金 | ▲30万円 |
| 固定資産税 | ▲12万円 |
| 修繕費(積立) | ▲10万円 |
| NOI | 約80万円 |
ℹ 実質利回りの計算
NOIベースの実質利回りは 80万円 ÷ 2,000万円 = 4.0% です。表面利回り7.8%のほぼ半分になります。
ステップ2:DSCRで返済安全性を確認する
NOIが出たら、次に DSCR(Debt Service Coverage Ratio:元利金返済カバー率) を確認します。
DSCR = NOI ÷ 年間元利返済額
物件価格2,000万円・頭金200万円・借入1,800万円・金利2%・35年返済の場合、年間返済額は約72万円です。
DSCR = 80万円 ÷ 72万円 = 1.11
⚠ DSCR 1.11は危険水域
安全ラインは1.2以上です。DSCR 1.11では空室が増えたり修繕費がかさんだりすると、すぐに返済が苦しくなります。詳しくは「DSCRとは?」を参照してください。
ステップ3:キャッシュフローで手残りを確認する
最後に、実際に手元に残るお金(税引前キャッシュフロー)を計算します。
キャッシュフロー = NOI − 年間元利返済額
80万円 − 72万円 = 8万円(年間)≒ 月6,700円
これは税引前の数字です。所得税・住民税を考慮するとほぼゼロかマイナスになります。
⚠ 表面利回り7.8%の物件の実態
月6,700円(税引前)。エアコン故障1回(10〜15万円)で、約2年分の手残りが消えます。
なぜ表面利回りが使われ続けるのか
表面利回りは計算が簡単で、物件間の比較に便利です。ポータルサイトが表面利回りを掲載するのも、統一指標として使いやすいからです。
ただし、投資判断に使う数字ではありません。あくまでも「検索フィルター」として使い、詳細分析は必ず「NOI → DSCR → キャッシュフロー」の順で行うべきです。
手計算では見落としが起きる
「自分で計算できそう」と思うかもしれません。しかし実際の判断では、次の条件を同時に・複数パターンで確認する必要があります。
- 金利が1%上がった場合、DSCRはいくつになるか
- 空室率が10%→20%に悪化した場合、CFはどう変わるか
- 賃料が5%下落した場合、年間収益はいくら減るか
これらを手計算で全パターン試算し、さらに複数物件を比較するのは現実的ではありません。「今の条件でギリギリOK」という判断が、条件変化で一気に赤字に転落することを見落とすリスクがあります。
表面利回り8%でも、NOI・DSCR・CFを確認すると「買ってはいけない物件」だったというケースは、決して珍しくありません。この判断を感覚ではなく数字でできるかどうかが、投資の明暗を分けます。
まとめ
- 表面利回りはコストを無視した数字
- NOI:運営費用を引いた実際の収益力(返済は含まない)
- DSCR:ローン返済に対する安全余裕(1.2以上が目安)
- キャッシュフロー:最終的な手残り
- 表面利回り8%でも、3ステップを踏むと手残りがほぼゼロになるケースは十分ある
- これらの数値はあくまで一例であり、物件条件・融資条件によって大きく変わります
関連記事