「利回り8%の優良物件」が退去1件で赤字になる——その原因の多くが「賃料乖離」です。現行賃料が市場相場より高い状態のまま購入すると、退去後に賃料が大幅に下落し、収支計画が一気に崩れます。
賃料乖離とは
賃料乖離とは、現在の入居者が払っている賃料(現行賃料)と、今の市場で新規募集できる賃料(市場相場)の差です。
賃料乖離率(%) = (現行賃料 − 市場相場) ÷ 市場相場 × 100
例:
現行賃料: 10万円/月
市場相場: 8万円/月
賃料乖離率: (10 − 8) ÷ 8 × 100 = 25%
この物件は「見た目の利回り」より25%収益が高く見えており、退去後に相場賃料で再募集すると収益が大幅に落ちます。
なぜ賃料乖離が生じるのか
理由1:長期入居者の賃料が据え置かれている
借地借家法の保護により、入居者の同意なしに賃料を引き下げることはできません。一方で、市場相場は新築供給・人口減少・競合増加で下落することがあります。その結果、長期入居者は「昔の高い賃料」を払い続けるケースが生じます。
理由2:新築時の賃料が高く設定されていた
新築プレミアム(新築だから賃料が高い)が乗った状態で長期入居者が入り、その後相場が下落したケースです。築10〜20年が経過すると特に起きやすい現象です。
理由3:売主が高利回りを演出している
意図的に賃料を高く設定した状態で売却するケースもあります。「現行利回り8%」と表示しながら、市場相場での再計算では5%以下になる物件も存在します。
⚠ 「現行賃料ベース」の利回りは信用しない
物件広告に掲載される「表面利回り」や「現在の利回り」は、現行賃料を使った計算です。市場相場賃料で再計算した「実質利回り(FCR)」が投資判断の基準になります。必ず自分で再計算してください。
賃料乖離が収支に与える影響
賃料乖離25%の物件(現行10万円、相場8万円)を具体的に計算してみます。
現行賃料ベースの収支(購入時の見た目):
GPI: 120万円(10万円×12ヶ月)
OPEx: 24万円(GPI の20%)
ADS: 80万円
NOI: 96万円
CF: +16万円/年(月+1.3万円)
FCR: 6.4%(物件価格1,500万円)
市場相場賃料ベースの収支(退去後の現実):
GPI: 96万円(8万円×12ヶ月)
OPEx: 19.2万円(GPI の20%)
ADS: 80万円
NOI: 76.8万円
CF: -3.2万円/年(月-2,700円・赤字)
FCR: 5.12%
現行賃料では月+1.3万円の黒字でも、相場賃料では月-2,700円の赤字になります。
ℹ 退去は避けられない
現在の入居者がいつまでも居続けてくれる保証はありません。退去は1〜2年以内に起きることもあります。「今の利回りが良ければ問題ない」という考え方は、リスクを先送りにしているだけです。
賃料乖離の見抜き方
ステップ1:市場相場を調査する
賃料相場の調べ方を参考に、類似物件の相場賃料を確認します。
ステップ2:乖離率を計算する
乖離率 = (現行賃料 − 市場相場) ÷ 市場相場 × 100
| 乖離率 | リスク | 対応 |
|---|---|---|
| 5%未満 | 低い | 現行賃料で判断してよい |
| 5〜10% | 中程度 | 退去後の収支も計算する |
| 10〜20% | 高い | 購入価格の引き下げ交渉を検討 |
| 20%超 | 非常に高い | 原則として相場賃料ベースの利回りで判断 |
ステップ3:入居期間を確認する
現在の入居者がいつから住んでいるかを確認します。入居期間が長い(5年以上)ほど、退去後の賃料ダウンリスクが高まります。
ステップ4:市場相場賃料でFCR・DSCRを再計算する
市場相場賃料での FCR・DSCR・CF を計算:
□ FCR > ローン金利 + 1%を維持しているか
□ DSCR ≥ 1.2 を維持しているか
□ CF がプラスになっているか
これがクリアできない場合は購入価格の引き下げが必要です。
賃料乖離が大きい場合の対応
対応1:購入価格を下げる交渉をする
市場相場賃料ベースで目標FCR・DSCRを達成できる購入価格を逆算して、交渉の根拠にします。
目標FCR 7%、市場相場NOI 76.8万円の場合:
最大購入価格 = 76.8万円 ÷ 7% = 1,097万円
現在の売出価格1,500万円に対して、1,100万円程度が適正価格という根拠が立ちます。
対応2:見送る
乖離が大きく価格交渉が通らない場合は、見送ることが正しい判断です。
購入価格: 1,500万円
現行利回り: 8%(見た目)
退去後利回り: 5.12%(現実)
退去後CF: −月2,700円(赤字)
→ 数年後に収支悪化で後悔
購入価格: 1,100万円(交渉)
市場相場利回り: 約7%
退去後CF: +月1.5万円
→ 退去後も収支が成り立つ
→ 数字の根拠で交渉できた
まとめ
- 賃料乖離 = 現行賃料 − 市場相場。退去後に収支が急悪化する原因
- 乖離率の計算式:(現行 − 相場) ÷ 相場 × 100
- 乖離率10%超は購入価格の引き下げ交渉が必要
- 乖離率20%超は相場賃料ベースの利回りで判断する
- 市場相場賃料でFCR・DSCR・CFを再計算することが必須
- 数字の根拠があれば価格交渉の武器になる
関連記事:賃料相場の調べ方 / 実質利回り(FCR)とは? / 不動産投資で失敗する人の特徴