「表面利回り30%」の地方物件。数字だけ見れば驚異的ですが、全指標で計算すると景色が一変します。
対象物件の基本情報
物件種別: 一棟アパート(6室・1K)
所在地: 地方郊外(最寄り駅 徒歩20分)
物件価格: 800万円
月賃料: 1室あたり月3.3万円(6室合計 月19.8万円)
年間GPI: 237.6万円
表面利回り: 29.7%(!)
築年数: 築35年(木造)
エリア空室率: 18%
融資条件:
借入額: 640万円(LTV 80%)
金利: 3.5%(地方銀行)
融資期間: 10年(築古のため短い)
ADS: 約76.3万円/年
⚠ 表面利回り29.7%でも安全とは限らない
地方・築古物件は物件価格が極端に安いため、表面利回りが高く計算されます。これはリスクの対価であり、「お得」を意味しません。
収支を計算する
ステップ1: EGI(空室率18%を反映)
GPI: 237.6万円
空室損(-18%): -42.8万円
貸倒損(-2%): -4.8万円
EGI: 190.0万円
エリア空室率が18%と高い点が最初のリスクです。
ステップ2: NOI
OPEx(概算):
管理費(5%): 11.9万円
修繕費(10%): 23.8万円 ← 築古のため高めに設定
固定資産税: 5万円(概算)
保険: 3万円
合計: 43.7万円
NOI = 190.0 − 43.7 = 146.3万円
ステップ3: 主要指標
FCR = 146.3 ÷ 800 = 18.3%
CF = 146.3 − 76.3 = +70.0万円/年(月+5.8万円)
DSCR = 146.3 ÷ 76.3 = 1.92
BER = (43.7 + 76.3) ÷ 237.6 = 50.5%
数字だけ見ると優秀です。では何が問題なのか。
隠れたリスクを検証する
リスク1: 空室率がさらに悪化する可能性
エリア空室率18%は既に高い水準ですが、人口減少が進む地方ではさらに悪化する可能性があります。
| 空室率 | NOI | CF(年) | DSCR |
|---|---|---|---|
| 18%(現状) | 146.3万円 | +70.0万円 | 1.92 |
| 25% | 126.1万円 | +49.8万円 | 1.65 |
| 33%(6室中2室空室) | 105.9万円 | +29.6万円 | 1.39 |
| 50%(6室中3室空室) | 75.4万円 | −0.9万円 | 0.99 |
6室中3室が空室になるとCFがマイナスに転落します。
リスク2: 融資期間が短く返済が重い
築35年の木造は残存耐用年数がほぼゼロのため、融資期間が10年と短くなっています。
融資期間10年: ADS 76.3万円/年 → DSCR 1.92
仮に20年取れた場合: ADS 約44.5万円/年 → DSCR 3.29
→ 融資期間の短さがDSCRを押し下げている
→ 10年で完済するまで毎月6.4万円の返済が続く
リスク3: 修繕費の爆発
築35年の木造は、いつ大規模修繕が必要になってもおかしくありません。
想定される修繕費:
外壁塗装: 150万円
屋根防水: 80万円
給排水管: 200万円
合計: 430万円(物件価格の54%)
⚠ 修繕費が物件価格の半額を超える
物件価格800万円に対して修繕費430万円は、投資額の54%です。購入後3〜5年以内にこの費用が発生すると、累計CFが吹き飛びます。
リスク4: 出口がない
10年後の想定:
築45年の木造アパート・地方郊外
→ 建物評価ほぼゼロ
→ 融資がつかない(次の買い手は現金購入のみ)
→ 土地値でしか売れない(200〜300万円程度)
→ 購入価格800万円に対して500〜600万円の売却損
全指標まとめ
| 指標 | 値 | 判定 |
|---|---|---|
| 表面利回り | 29.7% | 高いがリスクの対価 |
| FCR | 18.3% | 高い |
| CF(年) | +70.0万円 | 現状では良好 |
| DSCR | 1.92 | 良好(ただし空室悪化で急落) |
| BER | 50.5% | 良好 |
| 空室率50%時DSCR | 0.99 | 危険 |
| 修繕リスク | 物件価格の54% | 高い |
| 出口 | 売却損500〜600万円 | 厳しい |
表面利回り: 29.7%
→ 「超高利回り!即購入!」
→ 修繕費・空室悪化・出口損を想定せず
→ 3年後に修繕430万円 + 空室増加で破綻
FCR: 18.3%(リスク対価として高い)
修繕リスク: 430万円
出口: 売却損500万円の可能性
→ 修繕・出口を織り込むと実質リターンは大幅に低下
→ 購入するなら価格交渉(400〜500万円)が必要
まとめ
- 地方高利回り物件は「安いからリスクが高い」のであって「お得」ではない
- 表面利回り29.7%でも空室50%でCFがマイナスに転落する
- 築古の修繕費リスクは物件価格の50%超になることもある
- 出口(売却)は土地値のみで大幅な売却損の可能性
- 購入するなら修繕費・出口損を織り込んだ上で価格交渉が必須
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