「今の条件なら収支が成り立つ。でも金利が上がったら?空室が増えたら?」——この問いに数字で答えるのが**感度分析(シナリオ分析)**です。購入判断の最終確認として、必ず行うべき手順の一つです。
感度分析とは
感度分析とは、ある前提条件を変化させたとき、結果がどのくらい変わるかを確認する手法です。不動産投資では主に以下の3つの変数について行います。
| 変数 | 悪化方向 | 影響を受ける指標 |
|---|---|---|
| 金利 | 上昇 | ADS・DSCR・CF |
| 空室率 | 上昇 | EGI・NOI・BER |
| 賃料 | 下落 | GPI・EGI・FCR |
「現在の計画では大丈夫」でも、これらが同時に悪化した場合に耐えられるかどうかを、購入前に確認することが重要です。
シナリオ1:金利上昇
変動金利でローンを借りている場合、金利上昇はローン返済額(ADS)を直撃します。
前提条件(ベースケース):
借入額: 2,000万円
金利: 2.0%(変動)
返済期間: 30年
月額返済: 73,933円
年間ADS: 887,196円
金利が上昇した場合のADS変化:
| 金利 | 月額返済 | 年間ADS | ベースとの差 |
|---|---|---|---|
| 2.0% | 73,933円 | 887,196円 | — |
| 3.0% | 84,386円 | 1,012,632円 | +125,436円 |
| 4.0% | 95,489円 | 1,145,868円 | +258,672円 |
| 5.0% | 107,361円 | 1,288,332円 | +401,136円 |
⚠ 変動金利は金利上昇リスクを常に抱える
2025年時点で日本の短期金利は上昇局面に入っています。「今の低金利が続く前提」で収支を組むのはリスクがあります。金利が2〜3%上昇してもCFがマイナスにならないか確認しましょう。
DSCRへの影響(同じ物件・NOI 120万円の場合):
上記の前提(借入2,000万円)で NOI が120万円の物件では、金利が上昇するにつれDSCRが次のように変化します。
金利2.0%時: DSCR = 120万円 ÷ 88.7万円 = 1.35(安全)
金利3.0%時: DSCR = 120万円 ÷ 101.3万円 = 1.18(要注意)
金利4.0%時: DSCR = 120万円 ÷ 114.6万円 = 1.05(危険圏)
DSCRの安全ラインである1.2を下回るのは金利3%台からです。現在の想定利回りとDSCRに余裕がなければ、金利上昇リスクに対して脆弱です。
シナリオ2:空室率悪化
空室率が上がると EGI・NOI が下がり、BERを割り込むとCFがマイナスになります。
前提条件(ベースケース):
GPI(満室賃料): 180万円/年
OPEx: 36万円(GPI の20%)
ADS: 88.7万円
このシナリオでは、比較しやすさを優先して OPEx を年間36万円で固定して計算します。
空室率が変化した場合のCF変化:
| 空室率 | EGI | NOI | CF |
|---|---|---|---|
| 0%(満室) | 180万円 | 144万円 | +55.3万円 |
| 5% | 171万円 | 135万円 | +46.3万円 |
| 10% | 162万円 | 126万円 | +37.3万円 |
| 20% | 144万円 | 108万円 | +19.3万円 |
| 30% | 126万円 | 90万円 | +1.3万円 |
| 35% | 117万円 | 81万円 | −7.7万円(赤字) |
この物件のBERは約69.3%で、入居率が69.3%を下回るとCFがマイナスになります(=損益分岐空室率は約30.7%)。エリアの平均入居率と比べて十分な余裕があるか確認が必要です。
ℹ 地方・築古は空室率シナリオを厳しめに設定する
都市部では空室率5〜10%で十分ですが、地方郊外・築30年超の物件では20〜30%のシナリオも想定しておく必要があります。周辺の賃貸需要・競合物件数・人口動態を確認しましょう。
シナリオ3:賃料下落
入居率が維持されても、賃料が下がると収益全体が圧縮されます。特に長期保有では、経年劣化や競合増加による賃料下落は避けにくいリスクです。
前提条件(ベースケース):
月額賃料: 15万円
GPI: 180万円
賃料が下落した場合のFCR変化(物件価格2,000万円固定):
| 賃料下落率 | 月額賃料 | GPI | NOI(OPEx20%・空室5%) | FCR |
|---|---|---|---|---|
| 0% | 15万円 | 180万円 | 135万円 | 6.75% |
| 5%下落 | 14.25万円 | 171万円 | 128.25万円 | 6.41% |
| 10%下落 | 13.5万円 | 162万円 | 121.5万円 | 6.08% |
| 20%下落 | 12万円 | 144万円 | 108万円 | 5.40% |
⚠ 賃料下落は複利的に効く
賃料が下がると GPI が下がり、それに連動して EGI・NOI・FCR がすべて悪化します。さらにローン金利との差(イールドギャップ)が縮まり、DSCR も低下します。賃料下落リスクは単独で見るより、金利上昇と同時に発生するシナリオで確認するべきです。
複合シナリオ:3つが同時に悪化したら
最も重要なのは、複数の悪化要因が重なった場合のシミュレーションです。同じ物件(借入2,000万円・GPI 180万円・OPEx 36万円固定)で3つが同時に悪化した場合:
賃料−10% → GPI: 162万円
空室15% → EGI: 137.7万円
OPEx: 36万円(固定)
NOI: 101.7万円
金利3.5% → ADS: 108.2万円
CF: -6.5万円(赤字)
DSCR: 101.7 ÷ 108.2 = 0.94(危険圏)
さらに追加の空室や修繕費が発生すると即座に赤字に転落するレベルです。
以下はシナリオ2の物件(GPI 180万円・OPEx 36万円固定・ADS 88.7万円)を使った比較です。
金利: 2.0%
空室率: 5%
賃料: 15万円
CF: +46.3万円/年
DSCR: 1.52
金利: 3.5%
空室率: 15%
賃料: 13.5万円(−10%)
NOI: 101.7万円
CF: −6.5万円(赤字)
DSCR: 0.94(危険圏)
ベースケースでは十分な黒字でも、3つが同時に悪化するとCFがマイナスに転落します。この複合シナリオで「耐えられるか」が物件の本当の耐久性を示します。
感度分析で確認すべき3つの質問
- 金利が2%上昇してもDSCRが1.0を維持できるか?
- 空室率がエリア平均の1.5倍になってもCFがマイナスにならないか?
- 賃料が10%下落した状態で金利上昇が重なっても返済を続けられるか?
この3問すべてに「Yes」と言えない物件は、リスク許容度を慎重に検討する必要があります。
✓ 感度分析は「買わない理由」を探す作業ではない
感度分析は悲観シナリオを探して不安になる作業ではありません。「どこまで悪化したら撤退か」の閾値を把握し、それに備えたキャッシュリザーブを用意するための判断材料です。リスクを知ったうえで買う判断をするのが正しい使い方です。
手計算での限界
感度分析を手計算で行うと、1つのシナリオを計算するだけでも複数の指標(ADS・EGI・NOI・DSCR・CF・BER)を更新し直す必要があります。複合シナリオになると組み合わせが膨大になり、現実的ではありません。
まとめ
- 感度分析は「条件が悪化したとき収支がどう変わるか」を事前に確認する手法
- 確認すべき3変数:金利上昇・空室率悪化・賃料下落
- 最重要は複合悪化シナリオ。3つが同時に起きた場合でも耐えられるかを確認する
- 金利2%上昇・空室率1.5倍・賃料10%下落の組み合わせが実践的な確認基準
- 感度分析は「リスクを知って判断する」ための道具。ゴールは数字に根拠を持って買う・見送るの判断をすること
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